死の棘

長年連れ添った夫トシオ(岸部一徳)の浮気発覚により、その妻ミホ(松坂慶子)が激しく、そしてゆっくりと壊れていく。
これは体の内側をえぐられるような、ほんとに重い、重苦しい映画だった。映画冒頭のトシオが棒読みのような台詞でミホの自殺を止めるシーンは、この映画の恐怖というか、狂気というのか、そういうものをはっきりと最初に表現していて、これから起こるなにか恐ろしいものを強烈に予感させる。トシオは狂気にとらわれる妻を見て妻の愛の深さを知り、全力でミホを支える決心をする。しかし、ミホは狂気と正気の間を揺れ動きながらも確実に狂気に落ちていく。
すげぇ映画だった。でもこれは怖すぎるんだ。やっぱり、おいらは多少の希望というか救いというか、そういうものが見えるほうがいい。だから映画としてはすばらしいと思うけれど、この死の棘という話は好きじゃない。
この映画、役者の演技よりも監督の小栗康平がイメージしたものが凄いのかもしれない。いや、そのイメージを演じきったことを評価すべきなのだろうか。